横浜家庭裁判所 昭和40年(少イ)11号 判決
被告人 長谷川孝
一 主 文
被告人を懲役六月に処する。
未決勾留日数中二〇日を右本刑に算入する。
二 罪となるべき事実
被告人は、博徒国粋会長谷川正二派の幹部(長谷川正二とは実兄弟の関係)と目されているものであるが、昭和四〇年一月八日ごろから同年二月一四日ごろまでの間、○妻○苗(昭和二四年一月一九日生)、○原○行(昭和二三年八月四日生)の両名を同年一月八日ごろから同年五月七日ごろまでの間、○子○○郎(昭和二三年一月一八日生)をいずれも一八歳に満たないものであることを知りながら、川崎市今井南町四二五番地の三、大喜荘アパート内の被告人方居室に住み込ませ、被告人の若衆として児童の身体に文身を施し、近付の飲食店等をまわり猥せつ映画の観客あつめ、物品の売捌き等の用務に従事させ、もつて各児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下においたものである。
三 証拠の標目(編省略)
四 公訴棄却の申立に対する判断
弁護人は、検察官が本件の公訴事実は「児童らを被告人方居室に若い衆として住み込ませた」ことをもつて、児童福祉法第三四条第一項第九号の有害目的による支配行為であると主張するのに対し、
<1> 児童福祉法第三四条第一項第九号は、児童に対する有害目的による支配行為をもつて犯罪を構成するのであるから、その目的は構成要件の内容をなし、訴因として明記する必要がある。従つて、児童支配の状態が有害目的による支配行為に該当すると判断される具体的事実を摘示すべきであるところ、本件公訴事実は、単に「若い衆として住み込ませた」というに止まり、何ら右指摘の点につき判断の対象とすべき具体的事実の主張をしていないから、罪となるべき事実を特定して訴因を明示していない。
<2> 前記条章が「児童の心身に有害な影響を与え行為をさせる目的をもつて」と定めている以上、児童をして、何らかの有害行為をさせることを現実に予想しているものであるから、単に若衆として住込ませるというだけでは、その身分、地位、あるいは状態を表示するに止まり具体的行為につき、何らの指摘がないことに帰する。また、公訴事実記載の暴力団なる語義も厳密な解釈が要求されるべきであり、「若い衆」という用語も一般的ではなく検察官の釈明による概念規定では不十分であるから、この点からも訴因の明示に欠くるところがある。
したがつて、本件起訴状の公訴事実の記載は、刑事訴訟法第二五六条の規定に違反し、この重大な瑕疵は、その後の補充訂正によつて治癒されないもので、刑事訴訟法第三三八条第四号に該当すると主張する。
よつて、判断するに
児童に対する支配行為が有害目的による支配行為に該当するか否かについては、具体的事実に依拠して、これを判定すべきものであることは、その主張のとおりであるが本件のように被告人と各児童らとの間に或る種の継続的な身分関係ないしは支配れいぞく関係が形成された場合には、他に特段の事情が存在しない以上、その支配者の所属団体の性格(本件起訴状記載のように暴力団……という表示は適切を欠くものであることは弁護人主張のとおりである。)その行動傾向から、当事者間の身分、地位、状態のみの表示だけで支配目的を特定し得る場合も存するばかりか、一定期間、一定の場所における継続支配の場合においてはその支配目的や内容につき、すべてに亘つて具体的に明示する必要はなく、その同一性を認識させるに十分であれば、その主要な支配態容のみを、具体的に摘示して足るものと解すべきところ、本件公訴事実については、検察官は裁判所の釈明に答えて(昭和四〇年九月三〇日第四回公判期日)本件でいう「若い衆」とは、入墨を施したりして、被告人の手足となり、暴力行為、たかり、猥せつ映画の客あつめ、物品の押し売り等の用務に従事する者であるとし、公訴事実中にも、本件の各児童らが昭和四〇年二月一〇日ごろの猥せつ映画の上映に際し、客の案内等に当つた事実を摘示しているのであるから、右検察官の釈明とあいまつて、少くとも、その訴因全体については、これを他と識別し特る程度に特定がなされているものと認めることができる。もつとも、被告人側の防禦の立場からいえば、さらにその内容をなす個々の行為がより具体的に明示されていた方が便宜であり、この点検察官としても裁判所の釈明時、その記載不備を補完する方がより適切であつたと思われる。
しかし、本件起訴状の記載の程度をもつてしても、刑事訴訟法第二五六条第三項の要求は満たしていると解しなければならないので、これをもつて本件起訴状が違法のものであり、無効であるとはいえない。
よつて、弁護人の右の主張は採用しない。
五 累犯となる前科
被告人は、昭和三三年六月二七日横浜地方裁判所において、恐喝、傷害、強盗各罪により、懲役六月、懲役五年に、昭和三七年三月二二日横浜地方裁判所川崎支部において傷害、恐喝罪により懲役一年六月各処せられ、本件犯行当時いずれも、右各刑の執行を終了したものである。右事実は、検察事務官作成の前科調書によつて、これを認めることができる。
六 法律の適用
一 児童福祉法第三四条第一項第九号、第六〇条第二項(懲役刑を選択)
二 以上全部につき刑法第五六条、第五七条、第五九条を適用して再犯加重
三 以上は、併合罪であるから、刑法第四五条前段、第四七条、第一〇条を適用して金子健太郎に対する罪に併合罪加重
四 未決勾留の算入につき、刑法第二一条
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 中利太郎)
起訴状記載の公訴事実
被告人は、暴力団国粋会長谷川一派の幹部であるが、法定の除外事由がないのに、昭和四〇年一月八日頃から同年二月一四日頃までの間○妻○苗(昭和二四年一月一九日生)○原○行(昭和二三年八月四日生)の両名を、同年一月八日頃から同年五月七日頃までの間○金○○郎(昭和二三年一月一八日生)をいずれも一八歳未満であることを知りながら、川畸市今井南町四二五番地の三大喜荘アパート内被告人方居室に若い衆として住込ませ、同年二月一〇日頃吉田一行等が猥褻映画を秘かに映写して多数の客に観覧させるに際し、右三名の児童にその客の案内等をさせ、もつて児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的でこれを自己の支配下においたものである。